大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)233号 判決

二 ≪証拠≫を総合すると次の諸事実を認めることができる。

(一) 荒井邦雄は昭和五〇年六月の一五日か一六日頃被控訴人からその経営する旅館(森下牧荘)の客送迎に使用するマイクロバスの注文を受け、同月一九日かねてから取引があり、販売割当を消化しなければならないから販売してくれと売込みにきていた控訴人のセールスマン茂木春樹に、欲しがっているお客がいるからといって(お客の名前を明かしはしなかったが)車種・型式を指定して注文した。そこで、茂木が注文の車種・型式の本件自動車を仮ナンバーで荒井方に回送しておいたところ、被控訴人はこれをみてよいというので、荒井は本件自動車を控訴人から買取って被控訴人に売却することとしてこれを被控訴人に引渡した。そして同月二七日控訴人との間で代金は割賦払いで所有権は、代金完済まで控訴人に留保し使用者名義も荒井とすることで売買契約を成立させた。

右売買契約においては、代金は割賦手数料及び諸費用を含め一二二万〇八三六円とし、頭金を一三万七二五〇円の手形で支払い、残金は昭和五〇年九月以降昭和五二年八月まで毎月末日限り各四万五一〇〇円宛(但し第一回は四万六二八六円)二四回の割賦払いとし、同日付の割賦販売契約書が作成され、右契約書には不動文字をもって印刷した次のような約款が記載されていた。即ち

自動車購入が買主にとっても商行為であるときは、割賦金の支払を一回でも怠ったときは直ちに期限の利益を失い残存債務を全額一時に支払わねばならない(八条本文・一号但書)。買主が債務の支払を怠ったときは売主は担保権保全のために自動車の返還を受けてこれを一時預ることができ、買主は直ちに自動車を引渡さなければならない(一〇条)。八条各号の一に該当する事由があるときは売主は催告を要せず契約を解除することができ、この場合割賦価格(本件では現金価格・割賦手数料の合計一〇八万三五八六円)に相当する損害賠償を請求することができる。但し頭金及び支払済の代金と自動車が返還されたときはその評価額は控除される。以上のような趣旨の約款が記載されていた。

(二) 荒井は右のように本件自動車につき控訴人と売買契約を成立させ、一方被控訴人に対して直ちに代金を九七万五〇〇〇円と定め内金一五万円の支払に代えてジープ一台を下取り頭金三五万円の支払を受けて本件自動車を売渡し、残金は同年一〇月末日までに支払を受けることを約し、同年一〇月三〇日右残代金は完済された。

被控訴人は右のように代金の一部を支払って本件自動車を買受けたのであるが、契約時に所有名義は控訴人になっていることは知らされており、荒井からも月賦の関係があるから名義変更は完済してからにするといわれていた。しかし控訴人と荒井間の契約内容は知らず、自分の代金支払さえ完了すれば名義変更が得られるものと了解して使用者名義も荒井のままで本件自動車の引渡を受けたのであった。

(三) ところが、荒井は前記割賦金支払のために支払期日を満期として振出し交付しておいた約束手形のうち昭和五〇年一一月三〇日を満期とするものの支払をなさず同月分以降の割賦金の支払を怠る結果となった。そこで控訴人は荒井及び被控訴人を被告として本訴を提起し、荒井に対しては本件訴状をもって前記割賦販売契約を解除する旨の意思表示をなし、本件自動車の評価額を残代金債務から差引いた残額二一万円の支払を訴求した。しかし、控訴人は昭和五二年四月二八日荒井に対する訴は取下げ(以上の訴の提起・取下は記録上顕著である)、さらに同年五月九日には荒井との間で前記約束手形の未払分を含め控訴人の所持する約束手形(金額合計六四四万四四〇四円)につき荒井において手形金の支払義務あることを認め、これを昭和五二年五月から毎月末日限り八万円宛支払う。右割賦金の支払を二回以上怠ったときは分割弁済の利益を失い残額を即時に支払う旨の条項で調停を成立させた(佐久簡易裁判所昭和五二年(ノ)第七号)。

以上のとおり認められ(≪証拠≫中右認定に反する部分は措信しない。)、右認定事実によれば、荒井は所有権留保付の割賦販売契約に基づく代金債務の支払を怠り契約を解除されたわけであるが、控訴人は荒井が転売先をきめていて控訴人から買取れば直ちに本件自動車は買主のところに引渡されることを熟知しながら、代金回収のできなくなる危険を避ける措置を講ぜずして右割賦販売契約を締結したのであり、しかも一旦は右売買契約を解除しながら割賦金支払のため振出交付を受けていた約束手形未払分全部(したがって、本訴で請求時に控除していた自動車評価額も控除しないこととなる)につき再び分割によって弁済を受ける条項で調停を成立させたのであるから、控訴人は荒井の資力に信頼して割賦販売契約をし、割賦代金の怠りがあった後でも再び荒井によって代金の弁済が得られることを期待していたものというべきである。そして前認定の事実によれば被控訴人は本件自動車の所有権はなお控訴人に留保されていることを知ってはいたが、控訴人と荒井との契約関係を知らず自己の代金完済をもって所有権が帰属することを信じていたものというべきであるから、かかる被控訴人に対して荒井との売買契約が所有権留保付であったことを主張して本件自動車の引渡を求めることは信義則に反し権利の乱用というべきである。

(綿引 田畑 寺沢)

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